お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》



屋敷の裏口から外へ出たのは、やっと朝日が完全に顔を出し始めた頃だった。
ひんやりした風が頬を撫で、グレージュの髪がなびく。

コツコツ、と迷いなく門へ向かう足。
見張りはいない。
このまま、誰にも会わず、屋敷を出れたら。

と、次の瞬間だった。


メルの瞳に映ったのは、離れの渡り廊下に座り込む影。
思わずぎょっ、として立ち止まるが、朝日に照らされたそのこげ茶色の髪は、よく知っている。


「ダン……?…!」

「すぴー………」


すやすやと寝息を立てる男に目を見開く。

本来なら、昨夜メルに手を振って帰ったはずの彼がここにいるはずがなかった。しかし、愛剣を抱きかかえるようにして眠りにつくダンレッドの頬に触れると、だいぶ冷たい。


(まさかコイツ、一晩中ここで人払いを…?)

「…っ、はは……!」


張り詰めていた心の糸が切れたように、頰が緩んだ。無意識に出た声に、彼は起きる気配もない。


(…本当にこの男は…)

「ばか…。寝たら意味ないでしょう…?」

「んー……」