お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》



もう限界だ。


全ての思考がぶっ飛んだ。

加減を忘れて彼女の手を取り、振り向きざまに、驚いて目を見開く彼女の背中を抱き寄せる。

見つめ合った瞳は、もう逸らせなかった。


「…っ、ん……!」


気持ちが溢れるままに、口づけを奪う。
彼女の頰に、一筋の涙が伝った。

はっ、と短い吐息とともに離れた唇。
どちらからともなく重ねられた二回目のキスに溺れ、頭が真っ白になる。

華奢な体を押し倒すと、ベッドのスプリングが跳ねた。
シーツに縫い止めたように絡まる指。
ぎゅっと掴んだ手に力がこもる。


「…っ、ん、……ぁ……っ…!」


キスの合間に漏れる吐息。
全ての音が、メルの理性を乱していく。

ナイトウェアの中に滑り込む指。
彼女の柔らかな肌に触れた途端、メルは動きを止めた。


“越えてはいけない”


頭をよぎる忠告。

この先へ進んだら、二度と戻れない。

執事としても、彼女の側にはいられなくなる。


メルの瞳が戸惑いに揺れた、その時だった。


メルを引き寄せたルシアの腕。
彼の心情を全て察した彼女は、ねだるように抱きしめた。


「やめないで」


耳元で聞こえた声に全ての神経が反応する。もう、彼女の声以外何も聞こえない。


「二度と会えなくなっても、私は……!」


言葉の続きはキスで塞いだ。
とっくに覚悟は出来ていた。

執事ではない、ただの男であるメルの声が、二人だけの部屋に響く。


「ランプ消すから」


繋いでいた手を離し、包み込むように長い髪を解いた。赤く染まった彼女の耳に、そっと唇を寄せる。

それは、とても甘く優しく、悲しい願い。


「ここから先は、夢だと思って」