お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


すると、静かにメルを見上げていたルシアが、ぽつりと呟いた。


「なんだか、変な感じ。メルのことはよく知ってるつもりだったけど、執事じゃないメルについては知らないことばかりだわ」

「そうですか…?」

「うん。今も、燕尾服を着ていないだけで全然知らない男の人みたい。さっきから、少しだけ緊張してるの。んー、メルには分からないかもしれないけど」


ぎこちなく視線を逸らすルシア。
落ち着かない様子の彼女は、いつもは見せない表情だった。
メルは、そんな彼女へ小さく答える。


「私も緊張していますよ」

「え…っ!」


ルシアは、ぱっ!と顔を上げた。
視線だけ向けたメルと数秒見つめ合う。
まん丸な彼女の瞳を見つめていたメルだったが、やがて、ぷっ!と吹き出した。


「ふふっ…!」

「っ!か、からかったのね…!」

「まさか」


熱のこもるローズピンクの瞳。
色香を宿したメルの視線がルシアを捉えた。


「こうやって旦那様の目を盗んでお嬢様の部屋に二人きりでいるなんて初めてですから。…私も、ずっと、緊張していますよ」


ルシアが微かに頬を染めた。
今までとは確実に違う距離。この二人だけの時間は、きっとお嬢様と執事の延長線上では成り得なかった。

見つめ合ったまま、心地よい緊張感に包まれる。


「そっか……」


そう呟いたルシアは嬉しそうで、メルも自然と表情が緩んだ。