お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


心もとないランプの光。

扉が閉まると、そこは二人きりだった。
想像はしていたが、初めて踏み入れた彼女の部屋は落ち着かない。


「メル。ここ、座って?」

「いえ、お構いなく…、私は……」


“すぐに帰る”

ルシアの嬉しそうな顔を見た瞬間、その言葉は口にできなかった。
彼女は、どこかそわそわとしている。

そっ、とソファに腰掛けると、ルシアも静かに隣に座った。
お互い幾度となくこの距離にいたはずなのに、今は違う。
微妙に空いている距離が逆に落ち着かない。

メルは、腕にかけていたコートを近くの椅子に掛けた。
ここにいる、という無言の意思表示に、心なしかホッとしたようなルシアはふわり、と微笑む。


「ごめんなさい。私のせいで、メルまでずぶ濡れにさせちゃって…」

「平気ですよ。お嬢様こそ、ちゃんと髪は乾かしましたか?」

「えぇ。風邪をひいたらメルに怒られるもの」

「ふふ。よく分かっていますね」


くすくすと笑いあう二人。

あぁ、なんだか、久しぶりだ。

今までは変わらずそこにあったものが、急に尊く感じる。