お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》

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浴室の扉が開く。
濡れた髪から滴る雫を映すローズピンクの瞳。
いつもより無防備なその姿は、どこか戸惑っているように見えた。


「メル」


使用人たちが出払った廊下の壁に寄りかかっていたシルエット。
腕を組み、メルを見つめるダンレッドは、表情を変えぬまま静かに続けた。


「お嬢さん、部屋にいるって」


伝言のように伝えられた言葉。
一瞬動きを止めたメルだが、やがて、ふっ、と眉を寄せる。


「…まずいだろ。流石に」

「何が」

「俺は今まで、何があろうと彼女の部屋に入ったことはない」

「メルは紳士だもんね。知ってるよ。だいじょーぶ!旦那様には、メルは帰ったって伝えてあるから。帰りは誰にも見られないようにこっそり出てってね」

「お前な……」


ダンレッドは、小さく口角を上げた。
そして、トン、とメルの背中を押した彼は、薔薇色の瞳を微かに細める。


「これが、メルだけのお嬢さんと過ごせる最後の時間なんだよ?」


その言葉に心臓が震えた。
今更変えられもしない現実が、ズン、と体にのしかかる。


「二人きりでしか話せないこともあるでしょ。ほら、俺はもう帰るから、気づかれないうちにさっさと行って…!」


半ば強引に送り出されたメル。
ちらり、と視線を向けると、ひらひらと手を振るダンレッドが去っていく背中が見えた。