お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


ぴくっ!と跳ねた彼女の肩。
振り返ったルシアは、メルの顔を見るなり瞳を震わせる。

歩み寄るメル。
雨は、やまない。


「人生の大イベントを明日に控えて、貴方って人は…。風邪引くでしょう…!」

「ごめんなさい…」


燕尾服のジャケットを彼女に被せる。
せめてもの雨しのぎに、とも思ったが、お互いずぶ濡れのせいであまり意味はなかった。


「えへへ…メルに怒られるのは二回目ね…」


弱々しく笑う彼女に、メルは小さく息を吐く。

そういえば、一度目もこんな雨の日だった。


「どうして、ここに…?」


メルの問いに、ルシアはわずかに顔を伏せる。
雨音に混じり、彼女の鈴のような声が耳に届いた。


「虹が見えたような気がしたから…」

「え…?」

「雲間に虹が見えた気がしたの。よく見たくて庭に出たら、降ってきちゃって」


虹を見ていたはずの彼女の瞳は、赤かった。

見え透いた嘘は、彼女の精一杯の強がりに思えた。
一人でどこかへ行ってしまうんじゃないか、なんてメルの不安をかき消す力もないほどに、彼女は繊細で、今にも壊れてしまいそうだ。