お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


時刻は午後六時前。

定時が近づくと同時に、別れの時間が迫っていた。

空は曇天。確か、朝から雨予報だった。降ったり止んだりを繰り返す雲は、不安定な心そのものに見える。

束の間の休息を取っていたメルに、ダンレッドはぽつり、と独り言のように声をかけた。


「お嬢さんは?」

「メイド達と話してる。隣国に行けば、もう、当分会えなくなるからね」

「そっか」


女子トークにあぶれてしまったらしいメルは、さほど気にする素振りも見せず、ただ窓の外を見つめていた。

やがて、ぽつりぽつりと降り出す雨。

泣き出した空に、ダンレッドも目を細める。


その時、ふと廊下が騒がしいことに気がつく。
ダンレッドの犬並みに敏感な聴覚が、部屋の外の音を拾った。


「メル、なんだろう?なんか騒がしくない?」

「ん…?」


心なしかぼんやりとしていたメルを呼ぶと、彼はコツコツと廊下へ出て行く。
後に続いてひょっこりと部屋から顔を出すと、血相を変えたメイド達が慌ただしく駆けているのが目に映った。


「どうした?何かあったのか?」


側に来たメイドに声をかけるメル。
すると、彼女の口から飛び出たのは、思いもよらぬセリフだった。


『それが…!お嬢様が屋敷からいなくなってしまったんです…!』