お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


ぴくん、とはねる肩。ぱっちりと見開かれた薔薇色の瞳がこちらを向く。

見知らぬ男を羽交い締めにしているメルと、ウォーレンの財布を手にこちらへ駆けてくる人相の悪い男。その光景を見た途端、ダンレッドは瞬時に全てを察し目の色を変えた。

勢いよく払われるスリの足。

ダンレッドは、体勢を崩した男にラリアットをかまして地面に沈める。見惚れるほど力強く無駄のない動きは、いつもの彼とはまるで別人だ。街行く人も、思わず足を止めて見入っている。


「はい、没収。…ったく、人のモノを盗っちゃダメだって教わらなかった?」


ダンレッドの低い声が辺りに響いた。

ドン!と背中に座り、男から財布を取り上げたダンレッド。容赦なく地面に叩きつけられた男は、苦悶の表情で脱力している。もはや抵抗する気もないようだ。

それは一瞬だった。

あれは、本当にダンレッドか?

研ぎ澄まされた獣のような鋭い視線。その勘の良さと反射神経はずば抜けていた。ダンレッドの予想以上の身体能力に、その名を呼んだメルでさえ言葉を失う。


「メルさぁん!やりましたぁ〜っ!!」


感心して見つめていた数秒後。

犯人を締め上げるメルの目に映ったのは、いつものわんこのような表情で、得意げに財布をぶんぶん振り回すダンレッドの姿だった。