お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


メルを見上げるルシア。
メルは、穏やかに言葉を続ける。


「お水、持ってきましょうか…?」

「あ…、ううん、やっぱりいらないわ。メルを見たら、なんだか安心したみたい」

「ふふ…、それは良かった」


にこり、と微笑むメル。
いつもの笑みに、どこかほっとしたようなルシアは、ぎゅっとトレンチコートを引き寄せた。

彼女にとってはオーバーサイズのトレンチコート。すっぽりと包まるそのシルエットが、あまりにも可愛らしく見えた。それが自分のものなら、なおさら。

くらりとしたのは、酔いのせいだろうか。

夜風に吹かれる彼女の綺麗な髪に、思わず手が伸びる。


優しく髪をかけたメルの指が、わずかにルシアの耳に触れた。
ぴくん!と反応したルシア。目を丸くして見つめる彼女と、数秒視線が交わる。


「おやすみなさい、お嬢様」

「…うん。おやすみなさい…」