お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


思わず、彼のトレンチコートを頭から被せ、メルを隠すダンレッド。苦しそうな呻き声が隣から聞こえたが、気にしてやる余裕もない。

ダメだ。
今のメルは、足元もおぼつかない上に自力で動くことも難しい。
きっと、こんな姿、見られたくもないだろう。

しかも、時間が経って酔いが覚めてきたとはいえ、まだ彼は素面ではない。
何かの拍子にストッパーが外れて、何を言いだすかもわからないのだ。


「えーっと、これは気にしないで!大丈夫だから!ちょーっと楽しすぎて飲みすぎちゃっただけだから!」

「でも…」


不安げに瞳を揺らすルシア。
必死に誤魔化すダンレッドも、つい目が泳ぐ。

すると、その時。
トレンチコートを被ったメルが、すっ、とダンレッドから離れる。

一歩、彼女へと歩み寄るメル。ぎょっ!としたダンレッドは、思わず呼吸を止めた。


(メルーー?!!)


戸惑いながら、はらはらと見守るダンレッド。


(まさか、理性がぶっ飛んで抱きしめたりするつもりじゃ…)


と、思わぬ展開に嫌な予感が頭をよぎった、次の瞬間だった。

ダンレッドの心配に及ばず、メルは、被せられていたトレンチコートを優しくルシアの肩にかけた。

ダンレッドが、はっとしたその時。
メルは静かに口を開く。


「夜風は冷えますよ。寒くありませんか…?」