お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


久しぶりに見た相棒の姿に、肩の力が抜けたように感じたメルだったが、ダンレッドの表情は硬かった。

立ち止まるメルにゆっくりと歩み寄るダンレッド。

視線は少しも逸らさず、その瞳は真剣だった。


「久しぶりだね、ダン。顔が見れて安心したよ。そんな怖い顔して、一体どうした……」

「逃げなよ、メル。」


軽く声をかけたつもりだったが、その声はダンレッドによってかき消された。

一瞬、思考が止まる。

沈黙が続く中、ダンレッドは強く続けた。


「お嬢さんを連れて逃げなよ。今なら寝台列車も間に合うし、メルなら、誰も知らない田舎に行方をくらますことも出来るでしょ?」

「…ダン?」

「はい、これ。今まで俺が貯めてたお金。たいしてないけど、国境を越える二人分の片道切符と当分の食料を買えるくらいはある。返さなくていいから。」

「ダン。」


メルの声に、彼の声が止まった。

どちらも、視線は逸らさない。

差し出された麻の布袋をそっ、と押し返したメルは、冷静な声で続けた。


「いきなり、何?話が見えないんだけど。」

「嘘。分かってるくせに。全部言わなきゃダメ?」