お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》



王子の言葉に、メルは、すぐにルシアへと視線を向けた。それは部屋にいる誰も気付かないほどさりげなく。顔を少しも動かさずに、ただ、彼女だけを心配していた。

しかし、メルの予想とは裏腹に、彼女は悲しみも怒りも見せなかった。

逆に穏やかすぎて、動揺と怒りで頭がおかしくなりそうな自分の方がどうかしているのかと勘違いしてしまいそうになる。

だが、今起こった出来事は決して夢なんかではない。

それは紛れもない現実で、ルシアは目の前で第二の妻になるよう突きつけられたのだ。


「…正気かよ、お前…」


ダンレッドの声に、はっと我に返る。

能天気な笑顔しか見たことがない相棒の目は、無意識に震えるほど怖かった。怒りをあらわにした彼は、もはや殺気すら隠す気がないようだ。

一国の王子に対して、お前、だなんて。外に待機している護衛がこの場にいたのなら首が飛んでもおかしくない。

しかし、王子はダンレッドに声を荒げることもなく、その言葉に答える。


「何か、おかしいか?」

「なんでそんな平気な顔していられるんだよ…。よくお嬢さんの前でそんなことを言えたな…!」