お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》



「それは…、うちのお嬢様を“側室”に迎えたいということでしょうか。」


それは、言葉にするだけでも身体中を虫が這うような嫌悪。

メルは、王子から目を逸らさなかった。

逸らせなかった、という方が正しいかもしれない。

目の前の男がこれからどんな愚かで恥ずべき侮言(ぶげん)を口にするか、一言も聞き逃すつもりはなかった。

しかし、そんな冷ややかで敵意のあるメルの視線を簡単に受け流す王子は、ルシアや、彼女に仕える者の心情をまるきり無視したように、平然と告げる。
 

「そうだが。何か問題でも?」


“この男は、何も感じちゃいない”

自分が口に出した言葉が、どれだけここにいる者の心を抉ったか。

失礼な、無礼な、不快な

そのどれをとっても形容しきれないほど、その単純な一言は心ないものなのか。

察せない?

いや、そうではない。この男にとっては、それが当たり前なのだ。

繁栄するため、王族は昔からそういう習わしがある。一夫多妻制などと謳う風儀は、お伽話のようだ。

それが一般社会に当てはめたときに、どれほど許されないことかも知らずに。


「君は美しく聡明だ。語学も堪能で、外交に向いている。ロージアン国の発展のための利益になるだろう。」