お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》



「仲良くなったようで何よりだ。仕事ばかりもよくないからな。たまには歳が近い友人同士で気楽に過ごしてくれ。」

「いえ。別に、彼とは友人というわけでは…」

「ははは」


旦那様は、いつも穏やかに笑っていた。

数年前に奥様を亡くしてから時折体調を崩しているようだが、周囲にはそれを見せないらしい。

メルは、主治医から処方された薬をきっちりと管理し、少しの変化も見逃すまい、と、日々ウォーレンを気遣っていた。


「そうだ、メル。この書類の整理が終わったら所用に付き合ってくれ。」

「はい。分かりました。どちらへ向かいましょう?」

「貿易の件で港を管轄する役場に申請が必要でな。新しい取り引きの前はいつもこうなんだ。」


頬杖をついて、そう答えたウォーレン。

すると、メルがこくり、と頷いた時、ウォーレンは閃いたように呟く。


「そうだ。出かけるついでに市場に寄ろう。…揃えるものが多くあるから、荷物持ちを連れていくか。」


荷物持ちの心当たりに怪訝そうに目を細め、ちらり、と視線を外へ向けたメル。

その先に見えたのは、ばらまいた薪を黙々と拾い集める雑用係の少年だった。