お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


“やはり、仕掛けて来た”

飛び交うロージアン語を聞き、メルは、即座にそう勘付いた。

先ほどから、ずっと控えている従者側の視線を気にしていた王子。

どうやら彼は、こちらと見えない壁を作る気らしい。この国の者はロージアン語に疎いとタカを括っているようだ。舐められている、と察したものの、メルはその意図に苛立ちもせず平然と会話を聞いていた。

にこやかに進む会話に、ダンレッドだけが困惑して眉を寄せている。


「ねぇメル。今なんて言ってるの?」

「留学の時のホストファミリーの話とか、他の国の言葉は喋れるのか、とか。」

「…うう…わかんない…むかつく…」


時折くいっ、と燕尾服の袖を引き、こそこそとメルに訳を尋ねるダンレッド。王子の策略に見事にハマってしまった彼は、不機嫌オーラがダダ漏れだ。

威嚇し始めた番犬を静かになだめていると、小さく息を吐いた王子が話を止めた。


『やはり、君は私が思った通りの才女だね。…なら、この言葉の意味も伝わるかな。』


一瞬変わる部屋の空気。

その違和感を気にも留めなかったメルが、しれっと盗み聞きをしていたその時。
それは、唐突に、なんの前触れもなく落とされた。


『私の嫁に来ないか。君は、ロージアン国の姫に相応しい。』