彼の返答は、完全に盲点だった。隣国の王子が関わるなら、ウォーレンの指揮している貿易の話だとばかり思っていたからだ。
小さく呼吸をしたメル。
数秒の沈黙の後、メルは揺るがない冷静な声で答える。
「リューデ様。先程も申し上げましたが、今は旦那様が不在なのです。そして、この家は用心棒と呼べる使用人もここにいる“彼”のみ。…申し訳ありませんが、留守を任されている者として、貴方がたを屋敷に招くことは出来かねます。」
彼、と指されたダンレッドが、はっ!とした。
例え王子だからといって、ウォーレンの不在時に武装した輩を屋敷に入れるわけにはいかない。この屋敷が占拠されても抵抗できる戦力がないからだ。
加えて、彼の目的はルシア。なんの用事かもはっきりと示さない彼に、メルは警戒心を抱いていた。
メルの毅然とした態度に、少し驚いたような王子。護衛の男達からも苛立ちの気配を感じる。
緊迫したやりとりに、屋敷の使用人たちが集まって来た。メイドもコックも、皆、不安げにメルの背中を見つめている。
しかしその時。屈強な護衛をなだめたリューデは、静かに言葉を続けた。
「なら、私一人なら承諾してくれるか?…こちらも、連絡なしに押し掛けてしまった非がある。護衛は屋敷の外に待機させよう。」



