お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


目を輝かせるルシアとダンレッド。

温かで心地よい空気が部屋を包んだ。


「よしっ!決まり〜っ!旦那様が帰ってきたら、早速予定立てよ!」

「ふふっ!いいわね!南の国なんてどうかしら?きっと冬でも寒くないし。」


楽しそうに笑う二人を優しく見つめたメル。 

この先もずっと、この平穏は続いていく。

そう、誰もが信じていた。


その時。ルシアの手からティーカップが滑り落ちた。

割れた破片が、フローリングの上で不穏な音を立てる。


「お嬢様!」


素早くルシアの体を引き寄せたメル。

彼女は目を見開いている。


「お嬢様、お怪我はありませんか?」

「だ、大丈夫よ。ごめんなさい…!私ったら、はしゃぎすぎたみたい。」


とっさに破片を拾おうとしたルシアだが、ダンレッドがそれを制した。


「あっ、危ないことは俺がやるよ!片付けが終わるまで、お嬢さんはそっちのソファでメルとお喋りしてて……」


その時。屋敷の外から聞き慣れた音が聞こえた。

ふと三人が窓の外へ視線を向けると、その先には綺麗な毛並みの馬車が見える。


「お父様、もう帰ってきたのかしら?」

「いや。あの馬、ウチのじゃないよ。今日旦那様が連れてったのはハクニーの品種だから。」


普段、屋敷の馬の世話も兼任しているダンレッドが眉を潜めた。

するとその時、先頭に続くように何輛もの馬車がクロノア家に近づいてくるのが見えた。中でも、二番目に続いた馬車は明らかに質が良く、見たこともない綺麗な装飾が施されている。