翌24日は、一面霜で真っ白になる程、冷え込んでいた。

 私たちは白い息を吐きながら、それぞれの勤務先へと出勤する。

 例えクリスマス前日であっても、通常通りに仕事をし、気づけば、帰る頃にはしとしとと冷たい雨が降り始めていた。私はコートの襟を立て、折り畳みの傘を開いて足早に帰宅する。

 お兄ちゃんに食べさせたくて、昨日から仕込んでおいたチキンをオーブンに入れる。我が家では、クリスマスにフライドチキンは食べない。お父さんが、本来クリスマスに食べるのはローストターキー、つまり七面鳥の丸焼きなのに、フライドチキンじゃあ、材料も調理法も違うから変だって言うから。だから、うちでは毎年ローストチキンを食べる。七面鳥はさすがにスーパーで買えないから、若鶏で代用する。私は、お母さんにレシピを聞いて、昨日、頑張って仕込んでみた。

 焼き上がるにつれて、家中に美味しそうないい匂いが立ち込める。

 午後8時過ぎ、突然大きな音が鳴り響いた。

「キャッ‼︎ 」

私は、1人悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。

雷?

今度は遠くでゴロゴロと音がする。

びっくりしたぁ…

私は子供の頃から雷が大嫌いだ。

私は怖さを紛らわすために、気を取り直して、サラダや他の料理に取り掛かろうと立ち上がった。

 が、その時、再び雷鳴が轟いた。

「キャッ‼︎ 」

今度は、私の悲鳴と共に灯りが消えた。

えっ!?

辺りを見回すと、オーブンも消えている。

停…電?

私は、せめてスマホの灯りでもと思い、手探りでテーブルを探すが、うっかり置いてあった皿を落としてひっくり返してしまった。

もう、やだぁ。

私は泣きたいのを我慢してその場にへたり込む。

それ以上の被害を抑えるため、私はスマホを諦めた。

ゴロゴロと鳴り続ける雷。

時折、カーテン越しでも分かる程の稲光が私の恐怖を誘う。


雷なんてどっか行ってよ!

子供の頃は、お兄ちゃんが手を握って
「愛香、大丈夫!」
って励ましてくれたのに。

なんでお兄ちゃん、今日も残業なのよ。

「お兄ちゃんのバカ!」

私が口に出した直後、玄関でガチャガチャと音がした。

「な、何!? 誰!?
 やだ、来ないで‼︎ 」

私は祈るように呟く。

けれど、その祈りも虚しく玄関ドアが開く音がした。