気持ちだけじゃ物足りない。
言葉だけじゃなくて、形にしてお祝いたかった。感謝したかった。
去年――お嬢さまと執事としては最後の誕生日プレゼントは、紺色の帽子をあげた。
ハルくん、今でもソレかぶってくれてるんだね。
最後ってわかっていたなら、もっと他にいい物をあげたのにな。
終わりがあるなんて
あんなにも突然なんて
誰が予想できただろう。
お父さんが会社の倒産を報告したとき。
使用人たちも職を失って辛いだろうに、わたしたちの心配ばかりしていた。
『旦那さま!頭をお上げください!』
『わたしたちのことよりもご自身のことを考えてください』
『わたしたちは大丈夫ですから』
皆、本当に優しくて、大好きだった。
手放したくなかった。
失いたくなかった。
どんなときも支えてくれた皆を守れない。
わたしは非力だ。
くやしくてたまらなかった。
『姫……っ』
『……ハル、く……』
『僕……!』
『今まで、ありがとう』
ぴんと背筋を正して、笑え。
せめて大嫌いな“さよなら”をわたしから告げるほか、してあげられることを見つけられなかった。
今から頑張ったらなにか変わるのだろうか。
でも、なにを頑張ればいいのか
倒産直後はもさくすらできなかった。



