もうそばにいるのはやめました。




『おひめさまだぁ!!』



わたしが、お姫さま……?


当時愛読していた童話の絵本の影響もあり、真に受けてしまった。




『そうだよ。わたし、おひめさまだよ!』


『おひめさまはね、ぼくがまもるんだよ!』


『まもる?』


『ぼく、しょうらいしつじになって、おひめさまをまもるの!だからきみのこともまもるよ!』




おとぎの国の話みたいだった。


守る、なんて。

現実で言われるとは思ってもみなかった。



『こらこら。お嬢さまが困ってるだろう?おいが失礼いたしました』


『あはは。かまわないよ。かわいいじゃないか』



そのときはハルくんの叔父さんもお父さんも冗談に思っていた。



けれど、その次の日。

叔父さんにひっついてハルくんがわが家を訪れた。



『ぼくがおひめさまをまもるのぉぉ!!』



叔父さんになにを言われたのか、ハルくんは号泣していた。


わたしを発見するやいなや距離を詰めてきた。


今の今まで叔父さんにしがみついてたよね!?
瞬間移動でもしたの!?

ってくらい急速に。



『おひめさま』


『……は、はい』


『ぼくにきみをまもらせて?』



涙でぐちゃぐちゃな顔。

か細い涙声と嗚咽。


その目はどこまでも真っ直ぐなのに、断られるのが怖くてびくびくしてる。



雨の中、ずぶ濡れでご主人さまを待つ

愛らしい子犬みたい。



『うん。わたしのこと、まもってね』



この日から小さなお姫さまは、小さな執事に守られてきた。