もうそばにいるのはやめました。



傷は、名誉のくんしょうのよう。

もう治ってるけど。



お嬢さま時代に負った傷は、ただやんちゃだっただけ。



『お嬢さまああ!木に登ってはいけません!』

『だって……ことりさんがいたんだもん……』

『ケガしたらどうするんですか!』

『しないもん!』

『腕のコレはなんですか!!』



年齢がひとケタだったころは、家の広すぎる庭が遊び場だった。


木の枝で腕をざっくり切ったことも、木から落ちて泣きわめいたこともある。


男の子顔負けのおてんば少女だった。

しばしば使用人に叱られた。



『晴澄!あなたの責任でもあるんですよ!』

『ご、ごめんなさい……』

『ハルくんはわるくないよ!』

『どちらも悪いです!反省してください!』



たいていハルくんも巻き添えになった。
ごめんね、ハルくん。


お父さんやお母さんより使用人に怒鳴られた回数のほうが圧倒的に多い。



わたしたちと使用人に身分の差のようなものはなかった。


雇用関係というよりは、ご近所さん同士みたいな関係。



だから使用人がわたしを説教しても、お父さんとお母さんはとがめることがない。むしろ教育係みたいに考えていた。