もうそばにいるのはやめました。



三度目の雷より先に、円を抱きしめていた。


頭ごと包み込んで、音も光も遮断してあげる。



『……な、に、して……』


『大丈夫だよ。わたしがそばにいる』


『なんで……っ』



それ以上なにも言うことなく抱きしめ続けた。


触れたところから震えが伝わる。


恐怖を拭ってあげたくて腕の力を強めた。



『……母さんが、』



ポツリ、ポツリ。

沈黙を破った呟きは、やがて雨音に混じって落ちていった。



『母さんが死んだのも、今日みたいに雷が鳴ってた夜だったんだ』



そっと体を離しても、ずっと手をつないでいた。



『小5のときだった。母さんが死んで、父さんに「あいつの話はするな」って叱られた。父さんはそれまで以上に仕事にぼっとうするようになった。竜宝のお嬢さまばっかかまって、俺のことはほったらかしだった』



お嬢さまって、わたしのことだ。

ズキンッと胸が痛んだ。



『父さんもそのお嬢さまも嫌いだった』



とうとう言葉で「嫌い」って言われちゃった。


ちょっとは仲良くなったつもりでいたんだけどな。



思わず離そうとした手を、強く強く握りしめられた。




『ま、円くん……?』


『そのお嬢さまと一緒に住むなんて絶対嫌だった。……けど、お嬢さまは俺の思ってたやつと全然ちがってた。アホだしドジだし能天気だし……』


『ちょっ、円くん!?』


『それに……いくら嫌な態度取っても俺に話しかけてくるし、元お嬢さまなんだから俺をこき使ってくると思ったけどそれもねぇしさ。俺ばっか最低なやつになって……。こんな俺をお前は嫌ってもおかしくねぇのに、今みてぇに優しくしてくるし……なんなんだよ』