前方に倒れかけた体をきつく抱き寄せられた。
「まっ、円……っ」
身をよじらせても、胸をたたいてもびくともしない。
離れたいのに離れられない。
離してくれない。
「俺は寧音が好きだ」
うるさい雨音の中でも鮮明に聞き取れてしまった。
好き。
それはずっと欲しかった2文字。
でも……本当に?
「……そ、そういう、冗談は……」
「冗談じゃねぇよ。ウソでもねぇ。本当に好きなんだ」
「忘れられない人がいるって……!」
「お前のことだよ」
……え?
どういう意味?
「小4のときバイオリンのコンクールでバイオリンを奪われたことがあって、そこを助けてくれた女子のことがずっと忘れられなかった」
小学4年生のころのコンクール……バイオリン……。
身に覚えがあった。
『バイオリンさん、大丈夫だった?傷は……ないみたいだね。よかったぁ』
あのバイオリン、円のだったの……?
「その女子がお前だって気づいて……いや、ちがうな。気づく前から好きだったんだと思う」
じゃあ、本当に。
円はわたしを好きなの?
信じていいの?
じわじわと涙があふれてくる。
「寧音」
「っ、」
「俺のそばにいろよ」