こもる力もちょっと冷たい温度も、忘れられないくらい知っている。
だけどそんな必死な顔は、初めて見る。
「俺がする」
「……なに、を……」
「俺が恋人のフリをやる」
胸が張り裂けそう。
痛くて苦しくて……悲しい。
なにを言ってるの。
円、わたしが言ったこと忘れたの?
『あの告白をなかったことにしないで……っ』
そうはっきり伝えたじゃん。
それなのにどうしてそんなこと言うの?
わたしの気持ちをバカにしてるの?
ひどいよ。
「離してっ!」
円の手を振りほどいた。
「円には絶対に頼まない!!」
涙がこぼれる前に顔を背ける。
そのまま逃げるように走り去った。
また距離がわからなくなっちゃったよ。
夕日を丸飲みした灰色の厚い雲のせいで、まだ夕方なのに外は暗い。
この曇天模様が今のわたしにはちょうどよかった。
ポツポツ、と。
涙のすべる頬に雨粒が落ちる。
……傘、ささなきゃ。
カバンに入れていた折りたたみ傘を取り出した。
暗い空、雨、傘。
これだけそろえば、泣いててもバレないよね。
「あっ、姫!」
近所の公園を横切ろうとしたら、公園前にハルくんがいた。
あわてて目をこする。