名前を呼んで、好きって言って


放課後、私と翠君は電車に乗って、美桜が待つ喫茶店に向かっていた。


その途中、翠君はスマホで動画を見ていた。
映っているのは私だ。


あのとき、私は翠君にあるセリフを言わされた。


『翠君にしか頼めないの。お願い』


どうしてそんなことを言わせるのか聞くと、またさらに悪い顔で言われた。
翔和に見せて自慢するため、と。


翠君は優しいというのは、間違っていたのかもしれないと思うくらい、悪い顔だった。


今すぐ消してほしいと思うけど、頼みごとをしている身だから、何も言えない。


翠君に頼んで本当によかったのだろうかと後悔をしていたら、喫茶店に到着した。
美桜は先に来ていたみたいで、席に着いていた。


私は美桜の前に座り、私の隣に翠君が座った。


「……友達って言うからてっきり女の子だと思ってたけど……もしかして、秋保の彼氏?」


美桜は翠君を凝視して聞いた。


「ううん、友達だよ」
「どうも」


翠君は笑っている。


美桜の顔……これは、翠君を可愛らしい子だと勘違いしているんだろうな。
私が最初思ったみたいに。


「えっと……秋保は、私に話があるんだよね?」


私たちが座ると、美桜は話を切り出した。


「……うん」


また昨日と同じところで詰まる。


でも、今日は違う。
何も言えずにいると、翠君にいろいろ言われてしまう。


そうなる前に、ちゃんと言わないと。