名前を呼んで、好きって言って


となると、春木君か翠君ということになる。


春木君と行くと……絶対に私の味方でいると言いそうで、美桜を責めてしまいそうだ。
お前のせいで秋保が苦しんだ、くらいは言うだろう。
それは困る。


翠君は……私も美桜も平等に毒を吐かれそうだ。
でも、今回はそれくらいはっきり言ってくれる人がいたほうがいいような気がする。


明日、頼んでみよう。
面倒だと断られそうだけど。


「……昨日、翔和に向かって頑張るとか言ったのはどこの誰だったかな」


翌朝、翠君を廊下に呼び出して事情を説明したら、そう言われた。


その反応は予想済みだ。


「……頑張ったんだよ」
「逃げ癖がある君の頑張りって、大したことなさそうだけど」


私に呆れているからだろうか。
毒舌に磨きがかかっている。


「まあいいや。でも、なんで僕? 翔和なら文句も言わずについて来てくれるでしょ」
「春木君だと、話し合いにならなそうで」
「たしかに」


はっきり言うと、翠君は笑顔を見せてくれた。
少しだけ緊張感から解放される。


翠君は何か考えごとをして、ポケットからスマホを取り出した。


「一つだけお願いを聞いてくれたら、行ってあげる」


翠君は今までに見たことがないくらい、悪い笑顔をしていた。