「その子はいろんなものから逃げてただけだよ」
私が過去の話を言いたくないと言った覚えはないのに、翠君は誤魔化してくれた。
言い方とかは棘があるけど、かばってくれたことに変わりはない。
「何それ。余計気になるんだけど」
ですよね。
「翠君、ありがとう。自分でちゃんと話すよ」
「……あっそ」
私は清花ちゃんの背中を押して場所を移動する。
だけど柊斗さんに服を掴まれて私は足を止めた。
柊斗さんは私の顔を見つめている。
「えっと……?」
まだ柊斗さんの表情から言いたいことを読み取れるほど、柊斗さんのことを知らなかった。
「……ブラウニー」
ブラウニー?
「あ……ごめんなさい、忘れてました……」
昨日、泣きながら帰ったこともあって、お風呂を上がったら夕飯も食べずに寝てしまった。
そして、過去のことで頭がいっぱいになって、本気で忘れていた。
柊斗さんは怒るどころか、首を左右に振った。
「……落ち着いてからでいい」
どうやら催促ではなかったらしい。
「わかりました。楽しみにしておいてください」
柊斗さんは少しだけ口角を上げた。
やっぱり、あの人の笑顔の破壊力はすさまじい。



