人通りが少ないところに入ったのは、間違いだったかもしれない。


私は自分よりも大きな男の人に挟まれてしまった。


「ちょっとだけついて来てもらえますか」


胡散臭い笑顔をした男が言う。
それはとても不気味だった。


私はカバンの紐を強く握る。


「嫌って、言ったら……?」


声は震えていた。
足も動かない。


どうして昨日の今日なんだろう。
でも、紅羽さんから少し聞いていたからか、まだそこまで大きな恐怖はなかった。


「抵抗したら、抵抗できないようにするだけです」


その言葉と同時に、後ろからハンカチで口を覆われた。
そして私は気を失ってしまった。





秋保の登校時間は早いから、俺も早く学校に行けば、少しでも長く秋保といられると思っていた。


でも、今日はまだ秋保は来ていなかった。


「あーもう、昨日から気分悪い!」


ドアが開いたから期待したのに、入ってきたのは翠だった。
翠はいつも以上に不機嫌だ。


「あ、翔和。ねえ聞いてくれる? 昨日あの子について行ったら、紅羽に会ったんだよね」


不機嫌の理由はそれだったか。


「あの子って、秋保か?」
「そうだよ。って、忘れてた。はい、これ見て」