見ると女の装備は完璧だった。

登山靴はドイツの老舗メーカーではき慣れたものだとわかる。

ポールも2本リュックに差していた。

朝一に入山し午後一に下山するスケジュールであろうことは

確認しなくてもわかった。

本格的な冬シーズン前にという思いは俺も同じだからだ。

「サングラスがない。橋で落としたかもしれない。」

女は周りをあちこち探した。

「川に落ちたかもしれない。上から見てみよう。」

俺は橋に戻ってロープ越しに真下を探した。

川といっても小川で沢となっている。

沢の両側は岩がゴツゴツとした沢歩き特有の登り道だ。

あったとしても割れているだろう。

「ザッと見たが、あったとしても割れていると思う。どうする?下に降りてみる?」

「そうですか。もし見つかれば持ち帰ります。割れていたら危ないので。」

「わかった。行ってみよう。」

「はい。ありがとうございます。」

二人で沢へ降りた。

橋の真下あたりを探した。

頭上5mくらいに吊り橋がある。

沢の流れの心地いい水の音を耳にしながら

岩のあちこちに目を向けた。

「ありました。あそこに。」

女が指差す方を見ると川の中だ。

「俺が取ってくる。滑りやすいから待ってて。」

「はい。」

と返事をした。

素直な女だ。

俺は足元が濡れても気にせずバシャバシャと歩いた。

素手で水の中に半分つかったサングラスを拾い上げた。

水は刺すように冷たく透明度は抜群だ。

サングラスは割れていなかった。

もしかしたらレンズにキズがついているかもしれない。

女の方へ引き返した。

「割れてない。キズはあるかもしれない。」

そう言って手渡した。

「ありがとうございます。」

女はハンドタオルで丁寧に水気をふき取って

レンズをかかげて持ちキズを確かめた。

「大丈夫そうです。」

「そりゃラッキーだったな。」

「はい。」

「俺はこのまま沢を登るよ。」

「そうですか。私はコースへ戻ります。」

「気をつけて。」

「はい。ありがとうございました。」

俺は女がコースへ戻るのを見送ってから

岩場を歩いて沢を楽しむ道を進んだ。