あの日、お父さんは、本当は先に晴花さんを抱き上げようとした。
けれどその印に気づいた晴花さんが、息も絶え絶えにそれを握りしめて、お父さんに伝えてくれた……と。
「転倒した衝撃もあって、産まれるまで入院することにはなったけど。すぐに病院に運ばれたおかげで、俺の妹は無事に産まれてくることが出来たんだ」
「そんなデタラメ、嘘も大概にしろよ……あるわけないだろうそんなこと。一度だって、そんな話は」
「栄一さんが、誰にも言わなかったからだよ」
「誰にも?」
私は、八雲先生と同じように葵くんの答えを待った。
「“ 女子高生が優先されるべきだった ”、“ 少し怪我をした程度の奴が助かるなんて ”……って。世間ではそう騒がれて。栄一さんは、俺達家族が晒されないようにどんなに罵声を浴びせられても、絶対に口にしなかったよ……」



