緩みきった顔のままにハルの方へと向かうと、ただでさえだらしない顔が更に緩むのを感じた。

 カーテン越しに差し込む夕刻の柔らかな光に包まれたハルは、静かな寝息を立てていた。
 顔色は決して良くはないけど、入院中に比べたら、ずっといい。

 退院翌日に、知り合って日の浅い友人たちのお見舞い。疲れたのだろうけど、ハルはとても楽しそうにしていた。

 思えば、高校までの友人たちで、家まで来るのは志穂や斎藤たちくらいで、本当に少ししかいない。

 ……まあ、私立のせいで、みんな遠くから通ってたからってのもあるだろうけど。

 放課後や土日に遊びに行ったりは、ハルには多分荷が重い。体力が持たないだろう。だけど、たまに家で遊ぶくらいは良いのかも知れない。

 それもこれも、夏が終わってからの話か。

 そのまま、まったりとハルの枕元の椅子に座ろうとした瞬間、我に返る。

 ……いかんいかん。宿題しよ。

 ハルが起きている時は、できる限りハルの側でハルを見つめていたいから、脳みそのできが今一つのオレは、ハルの寝ている間にやることをやっておかなきゃダメなんだ。

 ハルを起こさないように、そっとハルの髪に手を触れる。

 緩いカーブを描いた髪を触っていると、ハル自身に触れたくてたまらなくなる。

 ……大丈夫かな?

 そっと髪の毛越しに頭に触れて、続いて、頬に手を動かす。

 一瞬、ハルが小さく身じろぎしたので慌てたけど、起きる気配はなく、静かな寝息はそのままで……。

 だから、思わず、これが最後とばかりに、ハルのおでこにささやかに口付ける。

 また、後でね。

 ハル、大好きだよ。

 声には出さず、心でそう語りかけ、オレは後ろ髪引かれながら、課題の待つデスクへと戻った。

 背中にハルの気配を感じられる幸せを噛みしめながら。


 (完)