一年の月日が流れた。今日は高校の卒業式だ。


「紫乃、これからカラオケに行くんだけど、一緒にどう?」
「ごめん、ちょっと用事があるから……また誘ってね」


クラスメイトの誘いを断り、教室を出る。


「紫乃、よかったの?みんな、卒業式のあとだから集まりたいんじゃ……」
「それよりも大切なことがあるから」


紫乃の言う『大切なこと』が何かを、即座に察した有里は、紫乃を引き止めた。


「まさか、まだ矢崎頼と会ってるの?」
「矢崎?誰、その人」


紫乃が嘘をついているようには見えなかった。有里は紫乃から手を離した。


二人は気まずさを残したまま、帰宅する。私服に着替えた紫乃は、家を出た。


いつも帰ってきていた道を進む。


高台に着くと、まっすぐベンチに座った。何をするわけでもなく、街の景色を眺める。


誰かと見ていたはずの景色。


ここにいると、その誰かに出会えるのではないか。


そんな不思議な期待を抱き、彼女は今日もこの茜色の世界で彼を探す。