恋歌はクリスマスを彼と過ごしたい

 恋歌の職場は総務部。

 いつものように会社宛に届いた郵便物を選別し、その中から営業部宛てのものを確保する。これを持っていくことで営業部に顔を出す大義名分ができた。

 ジトメで見つめるひとみの視線を背中に感じつつ恋歌は総務部を後にした。



「むっらったさーん♪」

 これまでで一番の笑顔と声で恋歌は村田のデスクに駆け寄る。正確にはスキップをしながらなのだが細かいことは抜きだ。

「おっはよーございまーすっ!」
「うん、おはよ」

 ノートパソコンのモニターから目を離すことなく村田が短く応じる。

 ああ、相変わらずそっけない。

 村田は浅黒い肌の持ち主だ。

 高校と大学でラグビーをやっていたとかで身体はがっしりとしている。着ているダークグレイのスーツがよく似合っていた。ネクタイは紺地に銀色の水玉模様。センスはあまり良い方ではない。白いワイシャツには皺があってどうやら着替えてこなかったようだと推察できた。

 黒髪を短く切り揃えており、首の上だけなら清潔感はそれなりだ。

 薄い眉をしかめ猫のような目でモニターを睨んでいる。時折ちょい大きな鼻の頭を手の甲で触れるのは彼の癖だ。血色のいい唇をむっとしたように歪めていて、カチャカチャと入力しては少し考え、また入力を繰り返していた。

 無意識だとは思うがたまに丸みのある耳がぴくぴく動いて可愛いというか面白い。

 そんな村田を見ながら恋歌は心の中でつぶやく。

 この人は私のこと嫌いなのかな?

 ちくり。

 微かに感じる胸の痛み。

 あれ?

 恋歌は自分の小さな異変に気づく。

 何だろう、この痛み。

 村田さんは私が嫌い。

 声に出さずにつぶやいてみる。

 ちくり。

 うっ、痛い。

 どうしてこんなふうに痛むのだろう。

 恋歌は自分の心に慌てた。

 これって何?

 こんなのはおかしい。

 おかしい……。

 村田がキーボードを叩く手を止める。

 顔を向けた。

「中野さん?」

 その声に恋歌ははっとする。

 村田が少しだけ首を傾けてまたブラインドタッチをし始めた。