恋歌はクリスマスを彼と過ごしたい

 村田に合わせ、いつもより一時間遅く恋歌は会社を出る。横を歩く村田は無口だが、わずかに口許を緩めている彼の表情を見れば上機嫌だと丸わかりだ。

 うん。

 恋歌は軽くうなずく。

 誘って良かった。

 彼が喜んでくれれば私も嬉しい。

 夜の冷たい風がぴゅうっと通り過ぎるが恋歌の心は暖かかった。これは戦いだけど村田と一緒にいられるのは楽しい。

 今回は禁じ手を使ってしまったけど、いつかきっと彼の心を掴んでみせる。

 アニメじゃなくて私に夢中にさせてみせる。

「私、負けませんよ」

 ぽつりとつぶやくと村田が不思議そうな顔をした。

「え? 今、何か言った?」
「……えっと、秘密です」

 恋歌は悪戯っぽく微笑むと村田と腕を組む。彼の温もりが心地良くて、これが戦いであることを忘れてしまいそうになる。慌ててそんな自分を追い払おうと恋歌はさらに強く村田に身体を任せた。

 村田がやや迷惑そうに眉をひそめる。

「中野さん、歩くのに邪魔なんだけど」

 えへへーっと笑いながら恋歌は思った。

 はい。

 その言葉が聞きたかったんです。
 
 
**本作はこれで終了です。

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