恋歌はクリスマスを彼と過ごしたい

 郵便物を持って恋歌は日課となった営業部への訪問を行う。

「おっはよぅございまーす♪ むっらたさーんっ!」

 にこにこと笑顔を絶やさず恋歌は村田のデスクに駆け寄った。

 村田は注文書を揃えながら険しい顔でノートパソコンに何かを打ち込んでいる。モニターのそれはエクセルだが詳しい内容までは恋歌にはよくわからなかった。

「おはよ、中野さん」

 早口でしかも手を止めもせず村田が応える。ついでに言えば恋歌に目を向けもしない。

 ああ、朝っぱらからそっけない。

 やっぱりそれが悔しくて恋歌は村田の腕に絡みつくように抱きついた。

 伝わってくる彼の体温。

 恋歌は少し嬉しくなって……なぜだかわからないけど嬉しくなって本当に微笑んだ。

 困ったように村田が言う。

「中野さん、邪魔なんだけど」

 はい。

 その言葉を聞きたくて邪魔してます。

 恋歌が離れないでいると村田がはぁっと嘆息してギーを叩き始める。どうやら言ってもムダだと判じたらしい。

 恋歌はたずねた。

「今夜って予定ないですよね」
「ないよ」

 よし。

 恋歌は心の中で親指を立てる。

 これなら作戦を実行できる。