「なんかこういうの、くすぐったいな」

「……だね」


確かに、耳の後ろまでくすぐったい。
だけど目の前の柔らかい結城くんの笑顔に、あたしはとても嬉しくなる。


「じゃあ、あんまり長話してると心配されるだろうから」

「あ、うん……」


あたしの家の方をちらりと見て、結城くんがそう告げる。

すぐ帰るってお母さんに言っちゃったし、結城くんの気遣いは有り難い……はずなのに、もう帰ってしまうんだと思うと、寂しくて。


「……菜子?」

「え? あっ、ごめっ……!」


気付けばあたしは、背を向けようとした結城くんのシャツの裾をキュッと掴んで、引き止めていた。


な、何やってるんだろう、恥ずかしい……!


「あの、練習っていつもこんな遅くまでやってるの?」


慌てて手を離したあたしは、今の行動をごまかすみたいに訊ねてみる。

咄嗟に口から出ただけの、深い意味なんて特にない質問だった……けど。