「菜子」
戸惑って、身動きすら取れず、望くんを見つめて固まる。そんなあたしの名前を、望くんは再び呼んだ。
「俺……本当は……」
ふたりっきりの保健室に静かに響く声。
切なさを含んだ表情で、望くんもまたあたしを真っ直ぐ見つめる。
そして……望くんの口が開こうとした瞬間だった。
「あれ? 結城くん、荷物持って来てくれたんだねー……って、お邪魔だったかな?」
ガラガラガラッと音を立てて、戻ってきた先生。
あたし達は何をしようとしていたわけでもないのに、咄嗟にお互いに身体を離していた。
「いえ、大丈夫です」
と、先に返事をしたのは望くんで。
あ、大丈夫なんだ……なんて、あたしは心の中で少しショックを受ける。
「荷物、ここに置いとくから」
「うん……ありがとう」
「あんまり無理すんなよ。お大事に」
先生の前だからか、当たり障りのない会話。
そして、望くんはそのまま、言おうとした言葉をあたしが聞くことはないまま、保健室を出て行ってしまった。



