「姫乃ちゃんっ……!」
すかさず、あたしを呼び止めようとしてくれたのは中村くん。
だけど、あたしはその声を振り切って、踵を返して背を向けた。
そのまま、早足でパタパタと進んでいく。
部活が始まる前に、あらかじめベンチの上に置いていた荷物。
ホイッスルやらストップウォッチやら入ったカゴの中から、スコアノートを取り出して、あたしはそれをバッと開いた……その瞬間。
「っ……」
ポロっと頬を一筋の水滴が伝う。
あたし、なに……やってるんだろう。
どうして望くんが『ありがとう』なんて、喜んでくれると思ったんだろう。
自分がフラれたこと、それからの望くんの態度。
ちゃんと考えれば、望くんがどう思うか予想出来たはずなのに。
なんであんな何もなかったみたいに話しかけちゃったんだろう。
きゅっと下唇を噛んで、これ以上涙が溢れ落ちないように我慢する。
だけど、望くんに突き放された心が苦しくて、寂しくて、悲しくて……。
スコアシートは、ゆらゆらと滲んで見えた。



