「あー、中村」
だ、だめっ……!
「昨日こいつが、姫乃さんと部長が一緒にいんの見たらしくてさー」
声に出す余裕もなかった。
中村くんの後ろにいる人に気付いていなかったのか、先輩達は一番言ってほしくなかったことを、あっさりと口にした。
あたしは咄嗟に彼……望くんから目を背けた。
だから、望くんがどんな顔をしていたか分からない。
ただ、次の瞬間には踵を返し、あたし達に背を向けたのを感じた。
そして先輩達もやっと、望くんがいたことに気付いたみたい。
「……」
さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、静まり返って気まずい空気が流れる。
「え、マジで?」なんて、あたしを疑うような声も小さく聞こえ、このままじゃ、本当に二股でもかけてたみたいだ。
早く、ちゃんと説明しなきゃと思う。
でも、責められるような視線に、何と言ったらいいのか分からなくなって……。
「何言ってんすか。上山先輩が戻ってくるから、その話してただけでしょ。……ね、部長」
助けてくれるようにそう言ったのは、他でもない中村くんだった。
それから中村くんの目線を追って振り返ると、言葉通り隼人先輩と上山先輩が立っていた。
「ん? 何の話?」
「昨日部室で、部長と姫乃さんが一緒にいたって、先輩達が騒いでて」
「ああ……そのことか。今日から上山さんが復帰するから、その話してただけだけど」



