「……あの、大丈夫ですか?」

「えっ……」


突然かけられた声に顔を上げる。すると、ベビーカーを押した女の人がいつの間にかあたしの前にいた。


大丈夫ですか……って、何のことだろう。

一瞬意味が分からなかったけど、心配そうにあたしを見つめるその表情に、やっと気が付いた。


自分が……泣いていることに。


「だっ、大丈夫ですっ!」


気付くなり急に恥ずかしくなって、ゴシゴシと手で涙を拭うと、ペコっと頭を下げて走り出した。


なんで……。

自分の心が空っぽになったみたいだった。
何が起きたのか、自分が立っている場所さえ、一瞬分かっていなかった。


なのにどうして、こんなに涙が溢れてくるんだろう。
不思議に思っている今も現在進行形で、涙はポロポロと溢れて。


こんな顔で帰れないけど、他に行く宛てもなく、足は自然と家の方へと向かっていた。

そして、息が切れて苦しくなって、足を止めた場所。


そこは昨日、望くんにキスされそうになった場所だった。


ゆっくりと近付いてきた望くんの顔。

そのすぐ後に『ごめん』と言って見せた、寂しそうな顔。

思い出しただけで……胸の奥がぎゅーっと苦しくなって、涙が勢いを増す。