いくら鈍くたって、さすがに分かる。
隼人先輩に抱きしめられたのを見られたのに、気付いてないはずなんてないのに、望くんはわざと話を聞かないようにしているんだって。
その証拠に、望くんから先輩の話は不自然なくらいに一度も出ない。
望くんがどう思っているのかは気になるけど、望くんの話を遮ってまで、切り出す勇気はあたしにはなかった。
むしろ、あたしにはこの方が都合がいいのかもしれない。何も気付いていないフリをしてくれている方が……。
そんなズルいことを考えてしまっているうちに、いつの間にか家の近くまで歩いてきていた。
あたしが道案内しなくても、望くんはもう迷うことなく送ってくれる。
見慣れた景色に思い出すのは、初めて一緒に帰った日のこと。
確かこの辺りで、望くんを公園に誘ったんだっけ。
……話したいことが沢山あって。
望くんのことが、もっと知りたくて。
思い出したらキュッと胸の奥が狭くなるような気がして、あたしはそのまま足を止める。すると、
「……菜子?」
手を繋いでいた望くんは、ぐんと伸びた腕に不思議そうに足を止めた。



