「西川先輩、ほんと他人(ひと)の彼女にちょっかい出すの好きですよね」
「あはは、彼女って言ってられるのも今のうちかもね」
あからさまに不機嫌な顔をする望くんと、にっこり笑ってあしらう先輩。
ふたりの間でバチバチと飛び散る火花が、見えるような気がする。
「え、えっと……」
どうしたらいいか分からず、声も上げられずにいると、「コホン」と咳払いをしたのは一緒に化学室へと向かっていた茜ちゃん。
「この調子だと本当に遅れちゃうけど」
「あっ、ごめん」
少し呆れた様子で言う茜ちゃんに慌てて謝ると、あたしの肩を掴んでいた望くんの手はスッと離れた。
「そうだね、引き止めちゃってごめん。じゃあまた放課後に」
「あっ、はい! ありがとうございます」
隼人先輩も教室へと戻るんだろう、「バイバイ」と笑顔で手を振られて、あたしはペコっと頭を下げる。すると、
「何でお礼なんか言うんだよ」
ボソッと、呟くみたいに望くんが言ってきた。