いや……いやいやいや、あたしのこと狙っていくって。

そっか、聞き間違えじゃなく、冗談だ。


「先輩ってば、冗談キツイですよ〜」


仮にも一度告白して、フった相手に。

それに、何となく隣から冷たい空気を感じるような気がして、わざと茶化すように明るく返事した……のに。


「冗談じゃないよ」


部活のミーティング時と同じ。
真面目な顔で即答されて、あたしの頭の中は真っ白になる。


冗談じゃないって……何で?

彼女がいるからって、フラれたのに……って、そうだ。


「だって先輩、彼女は……」

「もう別れてる。今はいないよ」

「え……」


思いがけない事実に、頭の中でふっと思い出したのは、茜ちゃんの言葉。


『菜子に気があるんじゃない?』


そんなこと、絶対ないと思ってた……それなのに。


「え、あの、ちょっと……」


ダメだ、上手く思考が回らない。

どう返事したらいいのか分からず、首を傾げて吃っていると、


「薄々気付いてました。でも……」


望くんの手が、あたしに伸びる。

そして、頭の上にそっと手のひらを乗せられ、軽く引き寄せられて……。


「絶対、渡しません」

「っ……!?」


すぐそばで聞こえた望くんの言葉に、ドクンッと大きく鼓動が跳ねた。


──待って。
これは一体、どういう状況……?