とにかく、望くんだけでも何のお咎めもないように上手く言わなくちゃって、思うのに──。
「……そっか」
あたしの言葉に数秒してから返事した先輩。
口角こそ上がって微笑んでいるように見えるものの、目は笑っていない。
「とりあえずふたりとも、今日終わったあとちょっと残っておいて。あと望、今日から新しい練習メニュー入るから、今すぐグラウンドに戻れ」
感情のこもっていない声で、淡々と指示を出す隼人先輩。
これは……間違いなく、怒っている。
どうしようという気持ちも込めて、そっと隣の望くんを確認すると、
「……はい」
いつかのように先輩に敵意を剥き出しにするでも、言い訳するでもなく、素直に頷いていた。
──まるで、さっきまでとは別人。
「じゃあこれ、持っていっとくから」
冷静にそう言って、残りのスクイズボトルを手に取る望くん。
「あ、ありがとう……」
その様子からは、焦ったり戸惑ったりする気持ちは感じられない。
それに……まるで普通のクラスメートに接するみたい。
さっき抱きしめられていたのが嘘みたいに冷静に話されて、どうしたらいいのか分からなくなる……けど。
「……ごめん」
先輩には聞こえないくらい小声で。
あたしに背を向ける瞬間、望くんはひと言そう謝ってきた。



