基は出先に行く前に、エレベーターで書類で確認していた。
すると、あやめが、
「お疲れ様ですっ」
と言って、飛び乗ってきた。
自分が驚くと、嬉しそうに笑う。
平和な奴だ、と思いながら、
「お疲れ様」
と挨拶を返すと、
「あの、専務は、浜波さんが仕事ができるから、浜波さんを秘書にって言われたときに、お話を受けられたんですか?」
とあやめが訊いてくる。
「俺は自分のチームに仕事のできない人間なぞ入れないが。
それがどうした?」
と言うと、
「いえ。
それが、みんなは浜波さんを――」
と言いかけたので、
「ああ、役員連中が、俺のご機嫌とりに浜波を持ってきたって言うんだろ?
仕事中、秘書を眺めている暇など……」
暇などない、と言おうとして気がついた。
こいつ、来週から、うちの秘書室に来るんだったな、と。



