まだ新車の匂いがするな、この車、と思いながら、結局乗っていると、前を見たまま基が、
「どこの車がいい?」
と訊いてきた。
「は?」
「一緒に店に行って試乗してみるか?
それとも、店の者に家に来てもらうか?」
「なんのお話ですか?」
とあやめが問うと、
「お前の車を買う話に決まってるだろ?
こんなときのために、もう一台いるだろ。
買ってやる」
と基は言う。
「いや、あの、こんなときは、バスと電車で行けば……」
と言いかけるあやめの言葉にかぶせるように基が言った。
「断りたいのか。
だが、断っても、願いはひとつ消えるぞ」
「なんでですか」



