あまり近寄るまいと思ったのに、あやめのその愛らしい笑みに吸い寄せられるように、犬のフリをしたまま高倉は茂みの陰から次の茂みの陰へと近づく。

 基の声が聞こえてきた。

「お前を見てると、そういう生き方もいいかなって思うんだよ。

 10の次は、いっぱい……。
 ざっくりでいい」

 そうしみじみと語っている。

 確かに。
 あやめ様を見ていると、なんだかゆる~い気持ちになってきますよね、
と心の中で頷きながら潜んでいると、あやめが、

「いっぱいなんて言ってませんよ~。
 たくさんって言ったんですよ」
とよくわからない反論をしているのが聞こえてきた。

 いや、どっちでも、ざっくりなことに違いないような、と思いながら、つい、笑ったとき、基も笑うのが見えた。

 基は、あやめに向き直ると、その腕をつかみ、そっと口づける。

 さすがのあやめも、此処で逃げるような真似はもうしなかった。

 夜景を前に手をつないで立つ二人を見ながら、高倉は、

 ま、これ以上見てるのは野暮ってもんですかね、と思っていた。