「あのー、今、ワイン注いでいったの、高倉さんじゃなかったですか?」
というあやめの声が高倉の耳に聞こえていた。
すぐ側で。
ふふふ。
あやめ様。
すっとぼけているように見えても、さすがは女性。
鋭いですね。
それとも、私への愛のなせるわざでしょうか、と実は近くのテーブルで料理を給仕していた高倉は思う。
潜入のコツは、周りの空気に溶け込むこと。
例え、すぐ側にいても、それと気づかれないように。
高倉は、あやめたちに背中側しか見えないようにしながら、なおかつ、自然な動きで移動し始めた。
髪型も姿勢も変えているので、雰囲気も身長も違って見えるはずだ。



