「忙しいと歩きながら化粧したりとかして、鏡もロクに見ないのよ。
 気にする暇もなくなるし、視界に入らなくなるのよ」

「それはまた、なんか違うような……」
とみんなが呟いたとき、リフレッシュルームの外で誰かが言った。

「産業スパイが出たぞーっ」

 なにか、イワシの襲来のようだが、聞き違いではない。

 誰かがこちらに走ってきた。

 見たことのある営業の男だ。

 ものすごい勢いでこちらに来る彼を同期の福間(ふくま)が追ってきている。

 みんながキャーッと逃げる中、浜波とあやめは逃げなかった。