その顔を見ていた基は、前から気になっていたことを訊いてみる気になった。

「あやめ。
 ……お前、実は、俺の許嫁ってことはないよな?」

 あやめはこちらを振り向き、いや、そうですよ、と言った。

「そうですよ?」

「そうです。
 私があなたの許嫁の、『古川(こがわ)あやめ』です」

 あまりにあっさり言われたので、
「……そうか」
と言ったあとで、三人で黙る。

 いや、二人は自分の言葉を待っているのだろう。

 そう気づいた基は、ようやく顔を上げ、あやめに言った。

「……お前、なんで此処にいるんだ?」

「いや、あなたが呼んだんですよね? この屋敷に……」

 いや、そういう意味ではない……。